2021年5月5日

5月18日『ユーロマンガ5号』配信開始!新連載『ありきたりな戦い』をご紹介!

いよいよ5月18日にユーロマンガ5号を配信開始します!そのユーロマンガ5号から、新連載「ありきたりな戦い」が始まります! 作者はマニュ・ラルスネ。フランスでは非常に評価が高い作家ですが、これまで日本語訳はひとつもありませんでした。 ゼロ年代のフランス社会を背景に、大人になり切れない写真家マルコがいろいろなものと折り合いをつけ、自分の居場所を見つける過程を描いたこの物語は、彼の代表作のひとつ。連載に先立ち、その魅力を紹介します。

燃えつきた写真家

物語の舞台は2000年代初頭のフランス。主人公のマルコは写真家の青年。数年間にわたって紛争地で報道写真を撮る仕事を続けてきた彼は、まるで燃えつきたように仕事に対するやる気を失ってしまっています。
都会で暮らすことにも疲れ、パリの家を引き払い、マルコは今、アドルフとい名前の猫と気ままな田舎暮らしを送っています。写真家として数年間必死に働いたおかげで、幸いしばらくは働かずに生きていくだけの貯蓄があります。
マルコはここ8年間、精神分析療法のセラピーを受け続けていて、田舎に引っ越したあとも月に1度はパリに通っていましたが、それももうやめることにしました。とはいえ、抗不安薬や抗うつ剤は常備していて、時折、極度の不安に襲われ、発作が起きると、薬を飲んでやりすごしています。
かつての仕事仲間が気を遣って写真の仕事を斡旋してくれることもあるのですが、マルコはそうした誘いをすげなく断ってしまいます。とはいえ、写真そのものに対する情熱を失ってしまったわけではありません。気に入った被写体が見つかれば写真を撮影し、それを現像して壁に貼り付け、しばらく時間を置いて気に入らなくなればはがして捨てる、という作業を繰り返しています。

他者と折り合いをつける

そんなある日、愛猫のアドルフを追って近所の森に入ったマルコは、その森の所有者だという猟犬を連れた男に不法侵入だと脅されます。アドルフは犬に襲われて怯え、どこかに姿をくらましてしまいました。親切な老人が見つけてくれたまではよかったのですが、アドルフは怪我を負っています。マルコは大慌てでアドルフを動物病院に連れていきます。幸い若く優しい女性の獣医が対応してくれ、アドルフが大事に至ることはありませんでした。マルコはその獣医エミリーに好意的な感情を抱きます。
こうして仕事に対するやる気を失い、都会を離れ、人間たちを避け、愛猫と気ままな暮らしを満喫していたマルコの日常に、再び人間たちが入りこんできます。地主の男、一人暮らしの親切な老人、獣医のエミリー、さらには弟夫婦、遠く離れたノルマンディー地方で暮らす両親……。こうした人づきあいの中で、マルコは再び喜怒哀楽の感情と向き合っていかざるをえなくなります。
家族であれ、恋人であれ、同僚であれ、隣人であれ、他者となかなかうまく折り合いをつけることができないマルコは、これらの新しい関係性を通じて、少しずつものの見方を更新し、大人になることを学んでいきます。それと同時に、彼の写真を撮ることの意味も少しずつ変わっていくのでした。

ありきたりな戦い

本作の原書は、2003年から2008年にかけて、全4巻で刊行されました。物語の舞台設定も、原書の刊行年とほぼ同じ2000年代初頭から2007年まで。同時代のフランス社会のさまざまな要素が取り込まれているのが本書の特徴で、2002年と2007年に行われたフランス大統領選と、それに対する登場人物の生々しい反応まで描かれています。こうした同時代性の反映は、登場人物たちに血を通わせる上で、大いに役立っています。
主人公のマルコはその時代のフランス社会で、写真家として、不安障害に悩まされる現代人として、高齢の両親を持つ息子として、相容れぬ価値観を持つ人たちの隣人として、日々、戦いに直面します。
マルコの戦いは、かつてマルコ自身が写真家として赴いた紛争地の戦争やマルコの父が参戦したアルジェリア戦争に比べたら、いかにも他愛のない「ありきたりな戦い」に見えるかもしれません。ですが、マルコと同じように、日々、ささやかな戦いと向き合っている多くの読者は、彼の戦いに共感を覚えることでしょう。

ユーロマンガ5号から始まる「ありきたりな戦い」に乞うご期待ください!

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